elephant”vermilion”リリース記念スペシャル対談

テキスト・編集:キタジマサトル

山口を代表するオルタナティブの雄elephant待望の3rdアルバム”vermilion”がdivergent recordよりリリースされた。本作のリリースを記念して、メンバー3人とレーベルオーナーであるしおんぬの対談が実現。聞き手はdivergent recordディレクターのキタジマサトル。


L→R 大田宏和(Ba/Cho) 森岡繁(Vo/Gt) 伊藤研二(Dr/Cho)

−まずは改めてバンドについて聞かせてください

森岡:elephantは元々2005年に結成して、結成当時のオリジナルメンバーというのは僕だけです。

しおんぬ:気になっていたんですが、なんでelephantってバンド名にしたんですか?

森岡:ガス・ヴァン・サント監督が好きで、コロンバイン高校銃乱射事件をテーマにした映画のタイトルから取りました。最近ではElephant Gym、古くはTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTなどと混同されることもありますが、僕が最初につけたはずです笑

伊藤:僕がドラムとして入ったのがちょうど10年前。加入してすぐレコーディングしたのがelephantの最初の音源です。「Yellow」というシングルを2曲入り。プラスしてライブ音源も収録してましたね。

しおんぬ:流石にそれは持ってないですね…

伊藤:音源出すのをきっかけに、山口から外に出たいという思いがあったんですよね。山口では当時から周南riseによく出ていたんですが、そこで出会ったツアーバンドに誘ってもらって、福岡とかボチボチと他県に呼んでもらえるようになりました。

森岡:当時でいうと、MySpaceやmixiとかを活用して、地道にアナログなやり方で頑張ってましたね笑

外出自粛のためテレビ会議でのインタビューとなった

−そこから前任のベースが脱退したということですが、大田さんが加入したのはどういった経緯なんでしょうか?

森岡:ベースが抜けてからしばらくは、サポートも入れずにルーパーとかを駆使して2人で活動していた時期もありました。

オクターバーで低音を出してベースアンプからも音を出すみたいな工夫をして…一旦これはこれで形になってきたぞ?という感触もあったんですが、2人だけでやっていると、どうも衝突してしまいそうで。緩衝材になる人がもう1人必要だったんですね。

大田:2人とは以前から長い付き合いで、実はまだ伊藤さんも加入する前、リズム隊2人とも代打のサポートでelephantとして演奏したことがあったんです。それが中々評判良くて、周南riseの店長さんからも「このメンバーでやったらいいじゃん」と言ってもらったほどでした。

伊藤:その時のことを覚えていて。僕が声かけたところ、加入してくれたんです。

大田:当時は「加入したはいいけど、この2人について行けるかな…」といった感じでした。同時期に別でビックバンドにも加入したんですが、ジャズやってみたら演奏技術も上がるかな?なんて思っていました。まあ忙しくてそっちはすぐ辞めてしまったんですけど笑

−大田さんが加入して今の体制になるわけですが、そこから最初に出したのが2013年のinnocent innocenceですね。

伊藤:3人になってアルバムも作って、ちょっとずつ精力的に活動をし始めたんですが、やっぱり反応が変わったなあと思ったのはbloodのMVを公開したあたりですね。当時山口でMVを出すバンドって全然いなかったので、elephantやりやがった!みたいな感じでした笑

森岡:後は2015年に出たマスフェスですね。ずっと出たかったイベントだし、それが初めての東京進出だったんですよ。テンション上がっちゃいました笑

しおんぬ:前作のBASEMENTは2019年のマスフェスの物販で私が完売にさせたんですよね笑

森岡:おかげさまで、売るモノがなくなってしまって焦りましたね。一時期は県外に遠征してまで全力でステッカーだけを売ってました笑

物販でのお客さんの反響ってすごく大切なので、それがないのは単純に寂しかったですね。今作を早く作ろうと思った理由の1つでもあります。

vermilionは以前より3人で作った作品

−今作vermilionの制作に入っていくわけですが、アルバムを具体的に意識しだしたのいつ頃ですか?

森岡:それこそBASEMENTを出してすぐに次回作は意識していました。ただ最初に出来たblue owlsが実はかなり難産でして笑 前作の発売から1年半くらいはこの曲に費やしました。

アルバムを作っていく中で変化があって、初めbanquetとかを書いていた時はEngine Downとかポストハードコア寄りのサウンドを意識していたのですが、後半birches、forget me not、childrenを書いていた頃は正直もう何も考えてなかったですね笑

しおんぬ:その辺の進捗は私も聞いてましたけど、何も考えてないからこそ、最終的に自分の核に近いものというか、より自分の好きな軸で曲が出来上がった感じですよね。

−今回各アレンジの作り方も新しいやり方を試したそうですが?

伊藤:これまでの制作は森岡さんが持ってきたリフを、スタジオ入ってその場で組み立てていくやり方だったんですが、今回は出来たリフを事前に送ってもらって各々考えてきたものをスタジオで試すようにしたんです。

ただ、中々送ってくれないんで「全然完璧じゃなくてもいいから、とにかく送って」と口を酸っぱく催促しましたけど笑

大田:今回は事前に家でフレーズを考えたり向き合う時間が長く取れた分、 “自分の曲”として入って来やすかったですね。

そういう意味では、今回は以前よりも3人で作った感じが強い作品になったと思います。

森岡:birchesにつけて来てくれたベースがすごく良くて。伊藤さんと2人で「大田さん、やればできるんだね」なんて見直しちゃいました笑

それにバンドアレンジにおいても、大田さんは客観的な第三者目線をくれるのでとても頼りにしています。

伊藤:長年やっているので、2人とも森岡さんがどんなフレーズを求めているかのツボみたいなものがわかっていて、自然と汲み取って考えていく感じでしたね。

後はforget me notは先にメロディまでついていたので、歌に寄り添ったドラムが叩けたのも新しく出来たことです。

森岡:長く続けているというのは非常に大きくて、お互いの持っているリズムとか自然と染み付いているし、正直この2人以外はもう考えられないですね笑

−今回divergent recordからリリースになりましたが、一緒にやろうと思ってもらえた理由を聞いてもいいですか?

森岡:しおんぬは、僕と同じくらいの熱量でelephantのことを考えてくれていて。例え他の有名レーベルに声かけてもらったとしても、中々こんな熱量でやってくれる人っていないって伝わったので、そこは規模の大小関係なく一緒にやりたいなと。

しおんぬ:これはもう、私が足繁く会いに行った結果ですね笑 

それと森岡さんだけでなく、伊藤さん大田さんとも会話する機会を意識して作りました。バンドってどうしてもコミュニケーションが特定のメンバーに限定されてしまったりするんですが、メンバー全員との信頼関係が不可欠なので。

森岡:後はお互い初めてのことだから、僕らであればしおんぬも気兼ねないだろうなと思って。かと言って馴れ合いでやるのではなく、レーベルとしてキチンとやることはやるだろうという信頼感もありましたね。

それと僕ら全国流通は初めてですが、色々進める上で「10年以上バンドやっててそんなことも知らないのか?」って言われるのが怖かったんですよね笑

しおんぬ:誰も言いませんよ、そんなこと笑

今後の活動とサブスクに対するこだわり

−新譜をリリースして間も無くライブ活動ができなくなってしまった状況ではありますが、今後の活動について聞かせてください。

森岡:ひとまず自粛期間が落ち着いて、またライブが出来るようになれば、以前と変わらないペースで活動を続けていこうとは思っています。

後はサブスクについて今後やっていきたいこともあります。基本的には3人で成立しないアレンジはしないようにしているんですが、サブスク限定の特別なアレンジで作品を作ることも考えています。

しおんぬ:サブスクはリリースするCDとは別物として考えてるんですね。ただ過去作は取り扱いないんですか?というお客様からのお問い合わせはよく受けますよ。

森岡:そうですね。過去作に関しては録り直してサブスクにあげることも考えています。

曲って時間かけて洗練されていくし、ライブでお客さんに聞いてもらいながらドンドン強度が上がっていくというか。一年以上かけて繰り返し演奏していって初めて完成していくものだと思っていて。

それにリスナーには「今」の状態を届けたいというのがあって、過去作をサブスクでリリースするなら強化された今の状態に録り直したい。vermilionに前作でも収録したthirstを入れたのも、そういう意味を込めています。

しおんぬ:例で挙げるとしたら、クラムボンの出してる”Re-clammbon“みたいなイメージですかね。過去作においても、サブスクには洗練された今の強度で出したいと。

森岡:ただ…時代遅れだとか言われるかもしれないけど、過去作については盤で持ってくれている人にとっての特権であって欲しい。
折角面倒な工程を経て手に取ってくれた事は、特別なものとして残しておきたいんです。

しおんぬ:そういう意味でも、今回vermilionを手に取ってくださった方々には今のelephantを存分に味わっていただきたい。同時に今後もドンドン進化していくelephantをどうか見逃さないで欲しいですね。